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親知らず
~抜歯について~
抜歯に至る歯
三國連太郎、松田優作、ロバートデニーロ、ブラッドピット、と聞いてピンとくる方は映画好きの方かもしれません。これらの有名俳優の方々に共通するのは、役作りのために自らの意思で歯を抜いているということです。調べてみるとこのような見上げた役者魂をお持ちの方は他にもいらっしゃるようです。でも、わざわざ使える歯を抜歯してしまうのは、かなりもったいない話だと思いますし、できるだけ歯は抜きたくないというのが普通の感覚だと思います。
さて、私(副院長)は口腔外科専門医という立場上、抜歯というどうしても耳聞こえの良くない専門処置を主に担っていますが、当然のことながら喜んで抜歯をしているわけではありません。何かしらの原因があって、抜歯せざるを得ない状況になってしまったために、やむなく抜歯をするのです。
抜歯をしなくてはならない状況を列記します。
・歯槽膿漏が進行して歯がグラグラの場合。(原因:歯周病)
・虫歯が進行して、歯の根っこまで浸食してしまった場合。(原因:齲蝕)
・差し歯など治療済の歯の根っこが割れてしまった場合。(原因:歯根破折)
・細菌が歯の神経の空洞を通して、歯の根っこの先端部で炎症を起こした場合。(原因:根尖性歯周炎)
・萌出した歯の位置異常ために咬み合わせに影響し、歯ブラシがしにくかったり、歯茎の炎症を繰り返すような場合。(原因:
歯の位置異常)
・親知らずや余分な歯(過剰歯)で、あっても役に立たないばかりか、隣の歯の虫歯や歯槽膿漏、歯列不正の原因になったり、正
常な歯の萌出を妨げたり、歯の周りの組織に炎症を起こしたり、抜歯したほうが口の中の環境が良くなると考えられる歯。
(原因:親知らず、過剰歯)
・矯正治療のために歯を動かすスペース作りのための便宜的な抜歯。(原因:不正咬合)
・けがで歯の根っこが割れてしまった場合。(原因:外傷)
齲蝕や歯周病は口の中の細菌が原因です。小さな虫歯のうちは削って詰め物をしたり、ある程度までの歯周病は適切な治療で進行を防ぐことができます。しかし、病態が進行すると細菌が体の中に侵入し、強い腫れや痛み(炎症)を経験することがあります。この炎症のコントロールがうまくいかないと、場合によっては炎症で喉や首が腫れて、息ができなくなったり、心臓や肺、脳にまで炎症が拡大したり、全身に菌が回って命を落とすような事例が今でもあるのです。
歯科医師はこのようなことを防ぐために、”必要な治療として”原因となっている歯を抜歯しています。そして、当然のことながら常に抜歯以外の選択肢を十分に検討しています。
有名な役者さんが来て「健康な歯を抜いてくれ!」と言われれば、とりあえずお止めするのが我々の仕事なのです。(最終的には役者魂に感銘して抜いてしまいそうですが・・・。)
親知らずについて
さて、少し具体的に”親知らず”の抜歯についてお話しさせていただきます。
親知らずは10代後半から20代前半ごろに親に知られることなく生えてくることがその由来だと言われており、正式には”第三大臼歯”や”智歯”(先日来院された中国の方は”知歯”と表記しておられました。)という名前で呼ばれています。前から数えて8番目の歯で、顎に生えるスペースがなくて傾いて生えていたり、歯茎に埋まっていたり、生える方向が通常と異なったりする個人差の多い歯です。いずれにしても様々な弊害があり、抜歯しておいた方がよいと判断されることが多い歯です。歯医者さんに行って親知らずの抜歯を指摘された患者さんは決まって、とても残念そうな顔をされます。心中お察しします。
親知らずに限った話ではありませんが、抜歯は歯の形態や位置により難易度が大きく変わります。歯茎を切ったり、骨や歯を削ったりする必要がある場合はクリニックで対応せず、大学病院などの口腔外科に紹介されることが一般的ですが、私(副院長)はこういった患者さんが紹介されて受診される病院歯科口腔外科に14年在籍し、10,000本以上の親知らずを抜歯してきました。親知らずと一言にいっても、難易度から術式は様々です。一般のクリニックでは不可能なこういった手術を受けていただけるのは当院の大きな特徴です。手術で体への負担が大きいと考えられる場合や、抜歯に恐怖心がある場合は静脈内鎮静法を併用し、なるべく安楽に快適に抜歯ができるような体制を整えています。
また、何らかの持病(心臓病、糖尿病、透析など)がある場合には、主治医と連携を取り、必要な対策を行ったうえで、医療安全に配慮した抜歯や手術を心がけています。
親知らず(埋伏歯)の抜歯
以下は当院で使用している「親知らずなどの抜歯に関する説明書」です。
ご参照ください。
【親知らずなどの抜歯手術】
・当院では安心して抜歯処置を受けていただくために、生体モニターを装着し、患者さんのバイタルサインをモニタリングしながら抜歯しております。
・バイタルサインに問題がないことを確認し、局所麻酔を行います。
・歯が歯肉や骨の中に埋まっている場合は、歯肉を切開し骨を削って歯を出します。
・歯が横や斜めに埋まっている場合は歯冠と歯根を分割して取り出します。
・抜歯した後、創を洗浄し、歯肉を切開している場合は縫合して終了します。
・手術時間はおおよそ30分から1時間程度です。
【抜歯当日の注意事項】
・食事をいつもどおりに摂り、内服薬がある方はこちらから特別指示がない限り、抜歯当日も休薬せず服用してください。食後は歯ブラシを済ませていらしてください。
・できるだけ楽な服装でいらしてください。
【合併症・後遺症】
・抜歯後は頬が3~4日腫れます。内出血のために頬や首、胸にあざができる時がありますが、自然に消失します。
・抜歯後に傷が化膿する場合があります。術後5日目以降に腫れてくる場合は感染の可能性がありますので、ご一報ください。
・下顎の親知らずは、歯根の先に神経が近い場合があります。歯根と神経の位置によって抜歯時に神経を損傷する場合があり、その際下唇や歯の感覚が鈍くなる可能性があります。症状は改善する場合がほとんどですが、中には症状が残存する場合もあります。
・上顎の親知らずは歯根の先が副鼻腔に近い場合があり、抜歯した際に交通してしまう場合があります。小さな穴ではほとんどの場合自然閉鎖しますが、大きな穴では後に閉鎖する処置が必要な場合があります。このような際に抜歯後鼻出血や副鼻腔炎を起こす可能性があります。
・抜歯の際に使用する麻酔薬や術後に内服する薬剤でアレルギーが出る場合があります。これまで薬剤でアレルギーが出た方はお申し出ください。
【静脈内鎮静法】
・当院では抜歯に対して恐怖心や不安などがある方に対して、静脈内鎮静法をお勧めしています。静脈内鎮静法は点滴で鎮静薬を投与することにより、リラックスして少しウトウトした状態で処置することができ、手術中の記憶がなくなること(健忘効果)が期待できます。
・詳細説明をご希望の方は気兼ねなくお尋ねください。


