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歯医者の麻酔と偶発症

2019/04/03

 先日、虫歯の治療で当時2歳の女児が死亡した件について報道されました。歯の治療で死亡するという事態は、歯医者自身でさえもほとんど想定していませんので、患者さんにとっては驚天動地の事柄と言えます。

 さて、今回の女児の死亡原因は局所麻酔薬による中毒であったとのことですが、今回は歯の治療で使う局所麻酔薬と全身的偶発症について、その概要と雑感を書いてみたいと思います。

 

 局所麻酔薬による全身的偶発症には以下の4つがあります。 

1. 神経性ショック

2. 過換気症候群

3. 局所麻酔薬中毒

4. 局所麻酔薬アレルギー

 3.が今回の事例です。以下、これらについて概説していきたいと思います。

 

1. 神経性ショック(疼痛性ショック、心因性ショック)

 歯科診療中の全身的偶発症のうち、もっとも頻度の高いものです。精神的な不安や緊張状態にある中で、強い痛みが加わることにより「血管迷走神経反射」(三叉神経から伝わる痛み刺激が副交感神経である迷走神経に伝わる神経反射)が起こり、心拍数、血圧が減少することによって気分不良や意識消失などが起こる偶発症です。きっかけは緊張と痛みですから必ずしも歯科治療時だけに起こることではないのですが、昔から歯の治療や局所麻酔は痛いという暗黒神話があり、過度に緊張してこられる患者さんが多く、実際の多少の痛みも相まってこの全身偶発症を起こすことが多いため、過去には「デンタルショック」と呼称された時期もありました。そして残念ながら実際のところ、歯科医師が一番経験する偶発症であると思います。症状を列記すると①顔面蒼白、冷や汗、周囲への無関心(反応が鈍くなる)、四肢の無力状態、嘔気、②徐脈、血圧低下、③意識消失です。意識消失が起こることはまれで、たいていの場合、気分不良や嘔気などで収まることが多く、横になって酸素を投与し、ゆっくりしていれば回復します。血圧下降や徐脈に対する薬剤投与は歯科医院ではあまり行いません。私自身投与はできますが、一般的には歯科医師が使い慣れない薬を投与するぐらいなら、早く救急車を呼んだほうがよい判断と言えるでしょう。そもそも静脈内投与をするためのライン(点滴)を確保したことがある歯科医師がどれぐらいいるでしょうか。

 

2. 過換気症候群

 40歳以下の女性に多く、きっかけは神経性ショックと似ており、極度の不安や緊張、恐怖などで過換気を発症します。以下簡単に説明します。過換気になると体内のCo2(二酸化炭素)が過剰に排泄され、血中のCo2分圧が低下します。血中Co2分圧の低下は血液のpHを高めます。(pHは低いと酸性、高いとアルカリ性です。血中のpHがアルカリ性に偏ることをアルカローシスといいます)この急性呼吸性アルカローシスは脳血管の収縮とヘモグロビン(赤血球にあり、酸素と結合する部分)と酸素の親和性を高めることから脳に酸素が行きわたらず、意識混濁やめまいなどの中枢神経症状が出現します。症状は過呼吸以外に①末梢神経症状:口唇周囲・手足の知覚異常やしびれ感、②筋肉症状:手足の硬直、けいれん、③心血管系症状:頻脈、不整脈、胸が苦しい、胸痛、④消化器症状:腹部膨満、腹痛などです。怖いのは症状の増悪に伴って恐怖感が増幅し、このまま死ぬのではないかなどと考えだし、過呼吸が助長されるという悪循環に陥ることです。対処としては、とにかくゆっくりと呼吸することとこれが命に関わるものではないことを理解させることです。よくドラマなどに出てくる袋を口に被せるのは、最終手段です。いきなり袋を口に被せるとよけいにパニックになることもありますので。

 

3. 局所麻酔薬中毒

 今回の事例である中毒は局所麻酔薬の血中濃度が急激に高くなると発症する偶発症です。歯科治療で汎用される局所麻酔薬であるリドカインの中毒量はおおよそ示されており、それ以上に過量投与しないよう注意喚起されていますが、思いがけず血中濃度が高くなる場合があります。それは血管内に直接注入された場合と小児や高齢者のように薬剤の代謝能力が低い患者への投与です。今回の女児の事例では小児に対する局所麻酔薬の過量投与が疑われます。症状は①興奮、多弁、めまい、頭痛、耳鳴り、顔面紅潮、悪心、嘔吐、②血圧上昇、頻脈、頻呼吸、③顔面や四肢末端の痙攣、振戦から全身痙攣へ移行、末期になると④意識消失、⑤血圧低下、徐脈、呼吸の停止。さて、①の場合はたいてい酸素投与と安静で事なきを得ますが、②や③になると一段階ギアを上げる必要があります。つまり静脈路の確保と鎮静薬の投与です。それができなくても、この時点で救急車はコールします。と、簡単に申しますが、たいていの場合、命の現場に居合わすことの少ない歯科医師も軽いパニックです。記事だけ読んで批判するのは簡単ですが、同業者としてはもう少し深く落とし込んで、自分の場合はどうかと深く、真剣に熟慮する必要があります。いずれにしても薬剤の過量投与に注意することと、異常を感知したらバイタルサインのモニタリングを行うことぐらいは医療人として必須の対応と考えます。そしてもう一つの最大の落とし穴があるのですが、これは最後に述べます。

 

4. 局所麻酔薬アレルギー(Ⅰ型アレルギー)

 アレルギーは急激な速度で重篤な症状を呈するものから、ゆっくりと症状が出現する遅発性のものまでありますが、やはりⅠ型のアナフィラキシーが命に係わるアレルギーとして知られ、即時対応が望まれます。アナフィラキシーの症状は多彩で進行が速いため、まごまごしているとあっという間に危険な状態になることがあります。症状は①皮膚症状:掻痒感、紅斑および顔面から胸部にかけての蕁麻疹、血管浮腫など、②消化器症状:嘔気、嘔吐、腹痛、大便失禁、③呼吸器症状:胸部圧迫感、胸痛、気管支痙攣、呼吸困難、喉頭浮腫、気道閉塞、④循環器症状:顔面蒼白、動悸、頻脈、血圧低下、不整脈、心停止など。これらの症状が数分から15分ぐらいの間に進行していきます。歯科医院で行うべき対応は何はさておき救急車の要請です。同時進行でモニタリング、アドレナリンの筋注、酸素投与、ショック体位、AEDの装着、可能であれば静脈路を確保します。AEDはパッドを付ければ勝手に心電図を測り、除細動の必要な不整脈の場合は音声で教えてくれます。歯科医院でできる対処はここまでです。私の患者さんでも局所麻酔薬でのアナフィラキシーの経験があります。みるみる顔面と胸部に蕁麻疹が広がり、息苦しさと吐き気を訴えられました。当時は総合病院におりましたので、救急科にコンサルトして入院管理としましたが、クリニックでも適切に対応できるよう準備を整えております。

 

 さて、大きく4つの全身的偶発症について概説しました。

 歯科医師は毎日のように局所麻酔を使いますが、当然今回のニュースのような事態はほとんど経験することがありません。歯科医師も人間ですからほとんど経験しないような事態を常に想定しながら仕事をしているわけではないのです。が、当然起こった時には対応できなければなりません。

 前述した大きな落とし穴ですが、これは歯科医師が「神経性ショック」という偶発症に慣れすぎていることだと思うのです。患者さんがしんどそうにしていても、気分不良を訴えられても、歯科医師はついいつもの「神経性ショック」だろうと思う、もしくはそうであって欲しいと願う気持ちがつい働いてしまうのではないでしょうか。今日の患者さんの予約は埋まっており、待合には自分の治療を待っている患者さんがたくさん待っている。それは無言のプレッシャーです。大事でないと信じたい気持ちが、大丈夫に違いない、時間がたてば元に戻ると思わせるその胸の内、クリニックを営む歯科医師なら多くの先生が理解できるのではないでしょうか。しかしながら、そこでギアを一段上げられる能力が歯科医師には求められています。

 歯科医師は医師でありながら専門分野が絞られ、免許も独立体系です。相当の経験がなければ全身管理を担うことはできません。口腔外科に14年携わって思うことは、人間の体は複雑で容易なことでは理解できないということです。今でも人体や病態はわからないことばかりです。そして、口腔外科の世界で見てきた多くの口腔外科医は滅私を旨とし、朝も夜もなく患者さんのために身を粉にして尽くす人々ばかりでした。そうして命の現場で経験したすべてを駆使して、口腔外科医は百戦錬磨の医師と対等にコンサルトし、歯科診療を行っているのです。すべての歯科医師がそのような経験をするわけではありませんが、やはり医療ですから、口腔を身体の一部として理解しておくことは歯科医療の原則だと思っています。医療に携わっていれば、想定していない突発的な偶発症や合併症に遭遇する可能性があることは避けて通れない現実です。結果的に命は救える場合もあるし、救えないこともあるでしょう。大切なことは迅速な対応力を担うことと、その責任を受け入れる覚悟で診療にあたることである、と私は思います。

 

 誤解のないように追記します。よく歯医者は医者じゃないと蔑む方がいらっしゃいますが、それは大きな誤解です。全身的な理解については医師とは横並びにはなれないかもしれませんが、最終的には医師も各科の専門性を持つので、全てのスペシャリストはいないのです。歯科医師は歯の治療のプロフェッショナルです。どんな優秀な心臓血管外科医でも、救命救急医でも、腫瘍内科医でも、歯の治療だけはできません。それだけ歯の治療は難しい。歯科医療だけ独立体系になっているのは、それだけ歯の治療は専門分野として広く深く、そして複雑であるからと思っています。そして、1日3食、1年1095食を支えるのは健康な口なのです。情熱をもってミクロ単位の仕事に尽くす歯科医師は生活に豊かさを提供しているのです。私はこの仕事に、そしてこの仕事に情熱をもって携わる歯科医師の先生方を誇りに思います。

 これを読む方が、自分あるいは自分の子供が安心して治療を受けられる先生とお付き合いされていることを願って。

 

 

 

京都府長岡京市井ノ内の一般歯科・小児歯科・口腔外科などの歯の治療や、訪問歯科診療・口腔ケアなどはおおはし歯科口腔外科クリニックにお任せください。

 

 

 

 

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